寝息/小川 葉
 
りを打ったのか
わたしは宙に投げ出され
浮いたまま階段を昇っていく
書斎のような部屋に入ると
昆虫の皮膚の人の形をした生き物がいて
すばしっこくタンスとタンスの隙間に隠れる
そのままわたしは浮いたまま
窓から外に出ていく
寝息がはげしくなっていく
空からはたくさんの知らない街並や
そうでないものが見える
見あげると
夜空の隙間から光がこぼれている
見覚えのある雀などがそこを行き来している
もうすぐ夜が明けるのだ
寝息が呼吸に変わると
わたしはわたしの体のなかにいた
隣で眠る人は妻なのだろうか
その隣で眠る男の子は息子なのだろうか
頬をつねると痛いので
わたしは仕事に行く
きっとそれは夫や父と呼ばれるものだ
いつもの景色が見えている
知らないものなど何もないはずの
いつもの道を歩いていく
二度寝したのか
どこかからまた
誰かの寝息が聞こえる
 
 
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