勇者/寒雪
由緒ある家系に生を受けた
武勇に長けた
この上なく正しい勇者
矜持と威光を
両肩に乗せ
自信に満ち溢れた足取りで
歩き続ける
勇者の姿が見えると
人々は理由もなく
ただ彼の前にひれ伏した
行く先々に転がる
路傍の石を力強く
両足で踏みにじりながら
勇者は独白する
「なぜ私以外の人間は正しくないのか」
誰も答えようとしない
誰も考えようとしない
勇者は勇者であるが故に正しい
ありふれた答えしか思いつかない
沈黙を耳にして
勇者はさらに自らの正しさを深めていく
勇者は正しい
人々の間違いを
自らの血液と生命を掲げて
彼の正義に染め上げる
彼の使命
血塗れのミカエルが
両手を広げて
滴る血筋を一すくい
彼の口に含ませようと
てぐすね引いて待っている
天にも愛される勇者
故に彼は自らの正しさを胸に
今日も歩き続ける
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