月/佳代子
月を食む猫がいた
銀色の毛の猫だ
私が抱きしめると
猫は風のようにするりと逃げた
その両腕は焼けただれ
甘い砂の匂いがした
長い黒髪のひとがいた
月を食む猫を抱いていた
私がその髪に触れると
身をすくめため息になって消えた
畏怖とほんの少しの絶望を残して
私の恋はかつて月の色をしていた
月の肌は掟破りの女神を
宿している
淋しさは美酒にして飲めという
悲しみは微笑みで化粧しろという
私の恋はかつて月の色をしていた
川面に横たわる女神に足を預けて
今宵は吹き渡る風に恋をしようか・・・
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