戦争/佐倉 潮
 
 
 
 文明の熱狂の皮の下で、いつでも戦争がにたりと舌
を出して笑っている。

       *

 たまの休みになると田畠さんは町を散歩するのが常
だ。そうしていつからか彼のお供をするのを習慣とし
てしまった、僕にとっても。

 千年ほど昔の世に碁盤の目のかたちと組まれた道を、
二人でずんずん歩く。おかげで僕は高倉通りだとか蛸
薬師といった京の狭苦しい町並みにだいぶ詳しくなっ
た。でも、田畠さんはそういう方面にかけてはまるで
トンチンカンな人だから、僕がいなくてはきっといつ
までも千年前の人間と同じ調子で、碁盤の目の中を徘
徊しているだろう。

     
[次のページ]
戻る   Point(6)