コスモス/天野茂典
 
上に大蛸をはわせて
  ぬめりぬめりと
  肌に吸いつく吸盤にもだえさせ
  その官能を描ききった
  北斎
  の
  美意識
  雨
  は
  斜めの直線だった
  バケツをひっくり返したような
  宵
  湧きあがる女子大生と行き違い
  信号待ちしていた
  ぼくの落魄
  今は亡き
  北斎
  の
  ピンク
  の
  骨
  が
  音立てて
  豪雨
  のように降ってくる
  ぼくの荷物も
  ぼくの未来も
  びしょ濡れになって
  ぼくは傘から顔がだせない
  こんどはぼくの大好きな蒸気機関車に乗って
  北斎が描いた地理を尋ねよう
  きょうの朝日はどんな花柄なんだろう
  どんなセロハンの色だろう
  雀のようにいっぱいの
  陽だまりを
  翼に蓄電してこよう
  これを書いたらぼくはカーテンを開けに
  歩き回るのだ
  朝だ
  海よ



             2004・10・21
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