遮断機/寒雪
 


宵闇の空気を裂いて下りる遮断機
ドラム缶を叩く警報機の金切り声に
微かに怯える竹竿の震え
レールの向こうに蜃気楼を従えて
月色のショールを纏った女
ルージュを引いた唇を聞こうと
右手を差し出そうとする度
つむじ風の回送列車が
セピアな残像を洗い流す


右頬を引きつらせ微笑む女が
まどろむ時に溶けないよう
右脳に漂う心の塊を
遮断機の向こうに投げ込むが
意地の悪い警報機が
波打ち際で吸い込んでしまう
鼓動とデュエットするサイレンの
刷り込まれたリズムが
網膜を苛立ちで塗りつぶす


レールの間に横たわる枕木
遮断機が守り続ける悠久の幅
それでも女のもち肌に
煙る温もりを嗅ごうと
明けない夜を紡ぎ続ける
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