関さん/小川 葉
関さん、という鳴き声の
鳥が鳴いている
それはある種の進化かもしれないし
退化かもしれなかった
私は河原にいた
どのような経緯で
この河原にやってきたのか
遠い昔の記憶など
ほとんどそのようなものばかりだ
枯れはじめた
葦原の見えないところで
鳥は鳴いている
関さん、と鳴くけれど
鳥の名前は知らない
関さんのことは知っていた
どこからか出向してきて
それから静かに定年を迎えるはずだった
関さんのその後は知らない
関さん、という
鳴き声はあるけれど
その鳥の名前は知らない
名前なんて
そういうものなのかもしれない
いつからここにいたのだろう
日が暮れていく
私は帰るべき場所に帰らなければならない気がして
その河原を去っていく
関さん、という鳴き声が
次第に遠ざかっていく
あの日関さんが
私の前を通り過ぎていったように
この河原には来ないだろう
来るとしても
その時
関さん、という鳴き声の
鳥はもういないのだろう
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