テレビジョンの中にはいる/殿岡秀秋
 
家にはじめてテレビジョンがはいったのは
ぼくが八歳のときだ
十二月の寒い午後
第九交響曲を唄う白いブラウスの女性たちが
画面に映る
カメラは三人くらいずつを順番に写していく

近くにだれもいないのを
確かめて
テレビジョンの側面を両手で押さえて
きれいな人を選んで
画面に唇を
押しつける
唾液がつく

画面のなかの
大人の女性は迷惑がらない
ぼくはテレビジョンの中にはいって
大人の女性に次々とキスをしたり
人の感触がないので
外にでてやはり機械かと
残念がったりするのを
くりかえす

第九交響曲の音楽が途絶えて
画面に砂嵐が流れて
女の人がのみこまれていく
ぼくはあわてて
テレビジョンの側面を叩いた
すると
プスッと音がして
暗くなった画面に
ぼくの顔が映る











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