秋の思い出/小川 葉
 
 
 
秋の空に
突き刺さる
ほそい針金が
風に揺れている

揺れているのは
黄金色の穂
だけではない
帰り道なのだった

その角を曲がれば
たどり着くだろう
その家が
たしかに
その時代にあるならば

夕餉の匂い
そして日没後の
しずかな奇跡

誰にも聞こえないように
世帯主が
空の針金を抜く

同じころ
夜まわりの鐘が
からころと
旧道を響かせている

それ以外に何もない
秋の思い出に
私は私を放流した
 
 
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