冷たい子だね/森の猫
 
夜 お手洗いに起きて
階段をトントンと
降りた

リビングでひそひそと
話す
父と母の声が聞こえた

 あの子は冷たい子だね

母は言った

一瞬 なんのことか
わからなかったが
あたしの名まえだった

双子の兄ではなく
あたしのことだった

冷たい子
冷たい子

あたしは母に
愛されてない

そう思った

成人し 
兄は早々と結婚し
家を出る

母には父
兄にはEさん

あたしには
だれもいなかった

愛してくれるひとが

寂しかった

早く あたしだけを
愛してくれるひとに
めぐり会い

家を出たかった

もう ずうっと昔
昭和の時代のことだから

母は覚えていなかった

あたしの胸には
今も刻まれている
言葉
 
 冷たい子だね
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