秋に/小川 葉
 
 
 
秋は
だれなのだろう
すずしげな顔をして
そのひとが
やってくると
しん、と
静かな音がする

みのりの秋と
ヒトはいうけれど
秋は
みのりなどではない

あまい果実につつまれた
その真ん中に

朽ち果てていく
わたしのかわりに
わたしみたいに生まれてください、と
種をおとしていく
秋は、いのり

いのりの秋
柿を食べている
食べすぎると
おしっこが近くなるよ
妻がいう
ほんとですかと
秋に問う
秋はだまったまま
何もこたえない

のこってしまった
この種は
どうしたらいいでしょう
たずねると
ますます黙ってしまった

秋に
わたしはもう
なにも聞かなかった
 
 
戻る   Point(6)