距離/小川 葉
死に目に会えなくて
後悔してるなら
その数分前
まだ意識があった時に
電話すればよかったのに
できなかった
ここ数年
父に電話したことがない
理由は
ただ照れくさくて
照れくさかったからだけなのだ
それなのに
照れくさいはずの
父の亡骸を
抱いて泣いた
それが
父と息子の距離だ
おたがい男である以上
その距離は
寸分も縮めない
縮めることができない
けれども
あの日
もし自分が死ぬことを
知っていたならば
父はきっと
私に電話しただろう
照れくさそうな声で
生と死の
距離を保つために
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