彷徨する春/梶谷あや子
欠けて往く、
桃からみどりの昏さへと
消失している中で
君は誰にもいえない、と云った
ぼくにさへ
膚から、更々と
かわいた芳い香りが
鈍化する烈しさで埋められてゆく
その透間に眠りがあり、
君でさへ
つめや髪さきを割りつづける風化に
あたらしい砂を噛むように
このわたしをわすれ(ぬ)よう、
そして、ぼくは説得しがたい
言葉を尽くして納得させてほしい、
君の膚へ
深々と埋められたその烈しさに噎せる
ねばつく水面に
身体をもう一度起して
描かれ(なかっ)た、あたらしい誰かに
夏へと迎いながら
いつか君が
ぼくへと云ってくれたように
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