満ち潮のように/殿岡秀秋
 
夕暮れの道場に電球が光る
入口の傍らに鉢植えの赤い薔薇の花
母と一緒になって道場を覗く
柔道着を着た大人と子どもたちが
笑顔で挨拶する
その中にキツネの目をした小学校の同級生がいる
見つからないようにぼくは母の袂にかくれる
「どうするの」
「やめておくよ」
母は黙って道場を後にした

同じクラスの子より強くなりたいから
柔道を習いたい
でも彼らの知らないところで覚えたい

「何級になれば勝てるかな」
叔父に尋ねる
「九級じゃ」
「無理だな」
八級、七級、六級、五級
「とてもとても」
「四級では」
叔父は少し考えて
「まだだな」
「三級では」
「ああ
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