ためらいの理由/三田九郎
 
左からも右からも何も来ない

横断歩道の向こうに少年がいて

赤信号を渡るのをあきらめた

息を弾ませて駆けてきた女は

二、三歩踏み込んだ後

向こう側の少年に気づいて足を止め

僕の隣に立ち 腕時計に目をやり

ハンカチで額を拭った

ためらいの理由はきっと同じ

ふと目が合い

僕らは苦笑した

彼は僕らの何を見抜いていたんだろう

その時の彼女と

いま僕は暮らしている
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