風の記憶/小川 葉
 
 
 
母の家までいくと
まだ幼い母が
家の前でひとり泣いていた

なにか悪さして
家に
入れてくれないのだと言う

私は扉をたたいた
悪いのは
この娘ではなく
私なのだと

扉が開くと
私は秋の風になって
遠いどこかへ去っていった

母の父が問う
誰かがいたのかと

誰もいない
まだいないのだと
母はこたえる

大家族の
夕餉がはじまる
私は未だ
その景色を知らない

そのときはまだ
私は
秋の風なのだったから

いつか母から生まれる命が
窓の外を
吹き抜けていく
景色は覚えているのに
 
 
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