妻である彼女/智哉
 
妻が身籠った
『妻』だから当然僕の子だ
妻は強い女だった
いや今も強い女だ
その昔、彼女はこう言った

人は正しく死ぬ為に生きているの

その意味が分からなくて
でも彼女が死をおそれていないことは分かって
僕は
正しく無くて良いから
彼女にそんな風に思って欲しくなかった

彼女は僕の妻になった
そして彼女は身籠った


少し膨らみ始めた子宮をさすって
妻はつぶやいた

生まれて初めて
死ぬのがこわいと思ってる

僕は
妻である彼女の右手を握り締めた

戻る   Point(0)