貧乏人は魂を売れ!/(罧原堤)
 
呟いていた。何かの呪文なのだろうか、ドストエフスキーの頭にそんな考えがよぎり、悪魔と契約する決断できかねた。何も考えられなかった。
「どうするのだ? myumyumyu、早く決めろ、もう消え去るぞ、そうすればもうお前は二度と俺と契約することはできないのだぞ。後で後悔しても知らんぞ!」
 ドストエフスキーはとっさに悪魔の足に縋りついた。
「待ってくれ! わかった。契約する! だから俺を何千年も世界に君臨できるほどの大作家にしてくれ!」
 悪魔は満足げに頷くと、「よし! お前の魂は俺が預かっておこう!」そう叫び、三叉鉾をドストエフスキーの額に突き刺した。
 ぐはぁ、と一声残し、ドストエフスキーは血まみれになり床に倒れふした。
 この日からわずか数年の間に彼は五大長編と呼ばれる傑作を次々に書き、天才の名をほしいままにした。今は地獄にいるらしい。
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