チワワみたいに小さくて/(罧原堤)
後の壁に何か落書きが書いてあったが読み取れなかった。しばらく放心していたと思う。5、6分ぐらい。それから僕はむしょうに走りたくなった。全力疾走して、自分の部屋まで戻って、必要なものをここまで持ってきたくなった。だがその衝動は大きなものではない。ただの思いつきのようなもので、ただ、だんだん肌寒くなってくる、寒さに、上着を取りに戻ろうか、(……それとも)、と、ズボンのポケットをまさぐり財布を持ってきているのに気づくと、そのへんで酒でも買おうか、どうするか、思案しだした。酒を飲んで自分を燃え上がらせればいい。体から熱が発するはずだ。だがまだ我慢できる。鴨が泳いでいる。鴨だって我慢しているんだ。限界まで我
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