夏なつかしく秋になく/木屋 亞万
 
秋の夜長が静かにこちらへ歩を進めている
もう虫が鳴いている
昼間の入道雲が萎んでしまえば
いそいそと秋が町のあちらこちらに姿を見せる

ところがどうだろう
私はまだ秋の準備ができていない
近頃どうも食事が喉を通らない
おまけに本を読んでも頭に入ってこない
文字が目を通らないのだ
さらには音楽を聴いていても
音色が耳を通らない
気分転換に映画を見ようと思ったけれど
暗い通路をうまく通れなかった

ずうずうと夏が萎んでいく
海はもう恋人たちを呼ばないし
夜空を彩る花火のお祭りも終わった
高校球児は甲子園の砂を拾い終わったし
小学生は夏休みの宿題と戦い終わった

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