川のコトバ/殿岡秀秋
 
車を止めて
降りることができない
スピードが出て
バランスを失い
倒れて
自転車の軸に左足の脛をぶつけて
痛さにうずくまる

叔父がはしってきて自転車を起した
痛みが消えるまで
荒川放水路の黒い水が光るのを見る
叔父も隣に座って午後の川面の乱反射を見る
「自転車の練習をやめるよ もうできない」
野菊の花の横の土手に座って
ぼくは川に向ってつぶやく

しかし練習を続けた
自転車にブレーキをかけて腰をずらして
左足を先におろし
右足はサドルの上において
おりることも覚えた
ついに乗れるようになった

ぼくには無理かなと思えることがあると
荒川放水路の土手から見た
沈黙の黒い川を想いだす
日を照り返しながら
ゆっくり動いていく波の向こうに
海が広がる










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