鳴かぬ蝉/伊織
わたしは弱い
飛ぶことに疲れた6日目の蝉のように弱い
アスファルトで蝉は微かに息をしている
罪の無い少年たちが地面に転がる蝉の腹を踏みつける
痛い
痛いので呻く
少年たちは面白がって更に圧を加える
痛い
ただでさえ黒い腹がちぎれそうだ
グリグリ、
ぐしゃっ。
身体はすっかりと潰れ腑から汁が滴る
途端に飽きてしまった少年たちは信号機を渡り立ち去った
気が付くと
まだ羽は原形をとどめていたその亡骸を完膚なきまでにヒールで踏みにじる私がいた
火のついたまま棄てられた煙草の如く
グリグリ、
グリグリ、
やがて感触も形も消え
地面にシミが転がる
わたしは弱い
傷だらけの自分自身を認めることができないほどに弱い
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