雨乞い蛙/(罧原堤)
 
心にとどめておくことも、闇の静けさもないのですから。
 あの男のことですか。それは私も気になっていましたが、もはや私のあずかり知らぬこと。私が手を下さずともろくな未来はないでしょう。ですが、最後にもう一度だけとおっしゃられるのですね。あの男を蛙にしろと。ですが、あの男はもうじゅうぶん蛙だと思いますが。ええ、今のままでも。あの男は蛙そのものです。まことの蛙にしろとおっしゃられるのですね。あまり気乗りはいたしませんが、ならば私もわだかまりを捨て、なるべく事後に波風が立たないように努めましょう。私には、蛙に似たまま人として生きるほうが、あの男にとっては辛いことに思えるのですが。雨蛙のほうがどれだけ美し
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