雨乞い蛙/(罧原堤)
まほろばのことなどもう忘れました。まやかしの術ももう使いたくありません。あやかしの霧が晴れたとき、人々の心は深く傷ついているのですから。私はもう微笑みません。ほつれた髪の毛を鼻先にもっていくことはあっても。はしためが桶の水も汲まずに桃や杏の実を食べていてもそれは凍てつく夜と、窓辺に差し込む月明かりがさせたこと。誰のせいでもありません。ましてそれが悲しみにかられてしたことであれば何故そのことを咎めることなどできましょう。それは、人々を惑わすことでもなければ、ぬか喜びに小躍りさせることでもない。ご存知でしょう。暗い森の夜のただ中においてだけしか、秘めたる力はやどらないものです。都会の喧騒の中には心に
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