月夜/まんぼう
 
古代ケルト紋様を研究している
美しい大学教授は
海草の匂いのウイスケに酔い
アイルランドの
月を探しに出かけていった

昔は料亭だったという
太い梁のある店の灯りが
夜に浮かび
精霊たちを招いている

左様
そうでござる
と語らう男たちが
大手門から出てきて
通り過ぎていく

祭礼の準備がはじまり
鼕太鼓を打つ音がする
護国神社の
銀木犀も香り始めた

月明りの堀川を
ゆっくりと
ヌートリアが泳いでいる

ここではもう何も変わりません
と狢が笑う

この秋から一人暮しの女
の家の前では
小だぬきが猫に化けて座っている

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