パッシング/小川 葉
 
 
 
真夜中
帰宅すると
家の前に車が停まっていた
父さんだ
と信じて
走っていくと
みじかくパッシングして
行ってしまった

あれが
父だとは思わない
もういないことは
わかっているからだ
けれども
この世界には
まだ
信じてみたいことがある

みじかくパッシングした
意味とか
その意味の無さ
とか

あれはぜったい
父なのだったとか

生きていれば
あたりまえのように
あったこととか

孫の誕生日に
プレゼントをあげたくて
途中で具合を悪くして
嘔吐して
帰ってしまった
あなたが今
来てくれたこと
とか

この世界には
まだまだ
信じてみたいことがある
 
 
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