忘れない/寒雪
あの日
きみが病院のベッドの上で
ぼくの手を弱々しく握り締め
静かに天に召されていってから
もう何回目の夏がやってきたのだろうか
川の流れが
穏やかに緩やかに岩肌を削り続けて
やがて姿を変えていくように
きみへの悲しみは
形を変えて忘れてしまいそうなくらい
少なくなっているように思える
きみが死んだ直後のように
振り返ったり思い返したりする
回数は減ったよ
生きている以上
日常に立ち向かわなくてはならない
ぼくは記憶力も悪いから
新しく入った情報が入り混じって
きみの悲しみが
机の引き出しに押し込めたみたいに
わからなくしてしまってる
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