手形/プテラノドン
 
遺影の視線は遠い
叔母は この荒れた庭の様相を
予想していただろうか。

二十年近く、庭の入口に置かれたままの
雨曝しの軽トラックの窓から
自生した花が突き出ていた。

自宅菜園の畑は草叢と同化して―それは、
居留守を使う叔父にとっては
好都合なのかもしれないけれど。

叔父は今でもまだ銭湯で
見知らぬ人と喋り続けては、
あわよくば仕事をもらってくるのだろう。

僕ら兄弟が手伝った仕事は
隣の県の山奥へ 軽トラックいっぱいの
古タイヤを運ぶことだった。

帰り道に渋滞に巻き込まれ
車内から 墓場へ向かう提灯の群れを見た。
家に着いたのは夜中だった。

玄関先に立つ叔母は、荷台に並べて積んだ
山で摘んできた百合を目にして 
家に入ることを許してくれた。

墓前に供えた花の手首には 
あの時と同じように、
くっきりと跡があった。


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