ジュリエットには甘いもの 前編/(罧原堤)
プロローグ
汚い暖炉の横にめがねを置いて彼は手でこめかみを押さえた。激しい頭痛が何度も彼を襲っていた。
「フォードル。目を開けろ」
膝をつき、半目で床の上を見ていたドストエフスキーの視界に獣のような足が現れていた。青い足で衣類を何もつけていないその悪魔は三叉鉾で地面をトントン叩いている。むき出しの太もも、脛に鉄針のような長い毛がビョンビョン跳ね伸びている。ドストエフスキーが首を心持ち上に持ち上げると、胸糞が悪くなるような顔をした悪魔と目が合った。祭りの露店に売ってあるお多福のような面構えだった。黴菌らしく触角が二本出ていて、顔色は青白い。
「どうだい? 俺と契約を結ばないか?
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