木本綾/鈴木妙
彼の部屋へ向かう途中
交差点で待つ車が五台すべて白い
わたしは脇のベンチに座り
タバコに火をつけた
初夏の陽の反射を
差し向けられ目を細める
生み出された汗が腋をにじませる
たぶんその瞬間に母は息を引き取った
交通事故だった
このタバコは彼が「欲しい」とメールしてきた
ぶんで新しい箱を買わないとまた殴られてしまう
だろうけどそんなことはどうだって
構わない
楡の木が後方から
影を揺らせ
プリズムたちは
いっせいにブタやカエル
あるいは星へと変化していった
わたしはそれをとても良い符丁だと感じる
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