夏の夢をとじておもう/石川敬大
 
 うす墨色をした
 雨月物語
 その雨のない風の気配は
 前髪のような柳葉のむこうから
 あるいてくる
 二人連れのおんなが
 ゆうれいだと
 ぼくが気づいたのはどうしたことだろう
 すっかり季節を忘失した
 おんなの横顔を
 ぼくはしっかりそのときみたが洗脳されたみたく
 すべてわすれてしまった
     *
 しんだから
 ゆうれいになったとか
 いきていても
 ゆうれいになれるとかなんとか
 で、あるならば死をも超越して
 かのじょらはただ幽かな存在感があるだけなのだ
 ゆうれいだという気味の悪い先入観の
 おんなたちの横顔はいずれも窺い知れない青白いもので
 ぼくは
 釣りあげられた魚の
 あおざめて
 夢をとじた白紙になって茫然としていた
 ゆうれいの先入観がどこから兆したのか
 なにひとつわからなかった
 ゆうれいのかのじょたち
 そのすれちがったおとこ
 つまり
 ぼくもまたあのとき
 ゆうれいだったのではなかったろうか
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