やさしいし/健
きみのし
考えたこともなかったし
その日の空はうそみたいな顔をしていたから
言葉は何も浮かんでこなかった
この物語では
信じられないことが
信じられないほど起こるし
それを告げる声は
いつもあまりにも遠い
怒りを送りつける宛先を探したり
泣きわめくためにせいいっぱいの努力をしたり
どうしようもないことが
どうしようもないほど積み重なっていったけれど
それは誰にでも訪れるし
ベッドは何も語らずに横たわって
待つことしかできないのがぼくらだった
日が沈むころに
きみがやさしい顔をして
紡ぎだしたのは
何かを削りながら生き続けるような
そんな言葉で
それはやさしくなんてなかったけれど
うそみたいにうそが無かったし
それがぼくらにとっての
きみのし
だった
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