墜落/藪木二郎
 
 一
 油蝉の羽が散っていた
 数日前
 瀕死の蝉の狂い鳴き
 羽ばたきは
 コンクリ上の背泳ぎで
 けど僕は
 その鳴き声に驚かされ
 その鳴き声に腹を立て
 ざまあ見ろって
 言ってやりたい気分だったが
 胴体はもう
 蟻かなんかが持っていってしまったようで
 胴体
 見えなくてよかった
 二
 ジョナサンにも憧れたけど
 あの頃僕が
 本当に憧れたのは
 まだ若いフレッチャー
 さり気なく女性が排除された世界
 でも海の上の世界
 海鳥の世界
 ジョナサンも
 フレッチャーも
 他の惑星にまで飛んでいったけれど
 空間識失調の開き直り
 漁り火と星とを間違えて
 いつか海に
 いつか海に
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