雲/「ま」の字
 
そのころ
灰色の頭部をした
理知的な蛸のやうなものが地上を統べ
うつくしい名画さながらに平原を
ナナめに逃げ惑うひとびとを捕らえては
おちこちのしかかっている 
(すぐれて理性的な蛸の あたり憚らぬ食欲の喘ぎが
 絶望する者の耳に 射精の如く注がれ )

それからジタジタと濡れた森の小径に似た
うす暗い千年紀につづく数億年が過ぎたあと
ようやくトンネルのさきに滲むもののように現れた
力無い西大陸のはて
粗い布を被った なまめかしい脚を生やしたいきものたちが
荒地に見え隠れしながらあるいてゆく
蛸も人も見あたらなくなった土地を
低くなりある光線が不思議にすくい上げる
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