矢/三田九郎
 
電話で起こされ

昨日落としたものを取りに行った

拾得物預かり所のおじさんを誘い出して落とし穴に落とした

僕の眼前に差し出された山積みの拾得物

同じ境遇の者達と出会い

彼らの孤独は癒されたのだろうか

希望を置き去りにして

敷かれたレールの上を運ばれていく

生きるほどに表情は凝固する

車輪と軌道が痛ましい音を立てる

下りにはもう駅はないらしい

どこまでも止まらない 放たれた矢

止めようのない濁流に 嘆きが 汽笛が

ため息がこぼれ落ちる

手を伸ばしても追いすがっても取り戻せない

今更、昨日には戻れないんだ


[次のページ]
戻る   Point(0)