真夏の事件/非在の虹
真夏の川で
二艘の小船が出会った
船頭は一人ずつだ
だが一艘は自転車を積んでいるのだ
川は驚きに流れを停めてしまう
よく見れば自転車は逆さまになっているのだ
川は植物のふりをする
船頭たちは櫓の手を止めた
向かい合う互いの目には敵意がある
車輪が回りだした
川面は鳥肌を立てる
水鳥は交尾の途中で見つめている
船頭たちは櫓を手ばなす。
車輪の回転はいっそう速くなっている
いつしか船は動物のようにしなやかになる
その上で船頭は今や全裸だ
むしろその姿を風景に見せたがっているようにもとれる
やがて川が流れはじめた
葦は風にそよぎ
川面に二艘の小船が
船腹を見せているだけだ
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