お化け煙突とボロアパート/真島正人
 
{引用=
お化け煙突の話をしようとすると
いつも決まって
口がこわばる
上手く話せるかどうかが
わからなくなって
話す気力が失せてしまう

その日は女のほうから
「ほら、あそこにいつも見えるじゃない」
と口に出してきて
だから
心が楽になった

「あそこにいつも見える、あれ。あそこにあるの」
「知ってる。見えてる」
「あれの根元を見に行ったことはあるの?」
「ないよ。君は?」
「もちろんないわ」

その煙突は、女のアパートの窓越しにいつも見えていて
でもどこに位置しているのかよくわからない
町は路地が
次から次へと継ぎ足されていくので
複雑に入り組ん
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