忘れてくことすら忘れ書きとめる言葉は記憶のいきれ なごり/は やしや も  り
 
ときどき、何もかも忘れてしまって、泣きそうになることがある。

会った人、と話したこと。
何を食べて、何をして、何を考えて。

昨日でなく、今日のこと。
今日の、それもさっきのことも、よく覚えていない。

ぼんやりしている性格ではあった。のんびり空を見上げて寝転がっているのが好きで、天気が良い日は制服のまま公園で何時間も過ごした。雲を見て、樹を見て、ときどき横切る鳥を眺めて。そんな、くうはくしかない春だった。

ある時、健忘症なのかもしれないと、ハッとしながら、それをかき消すように調べた、夜中にひとり。確信しながら、手ざわり、マチエール、それだけは残ると。頭に残らなくても体に堆
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