悲鳴/寒雪
 
乾いた銃声
一瞬のうめき声
その後に倒れこむ牛の体
ショーは終わった
堰を切ったように
一斉に罵声を浴びせる観客たち
なんて悲惨なものを見せるのだ
血が流れていて不快そのものだ
だから動物を殺すのはだめなんだ
彼らだって同じ生き物のはずだろう
観客たちの止まることのない怒声を尻目に
屠殺人は牛の顔に手をかけると
皮膚をはがすみたく
ぺろん
とかぶせていた物を素早く剥ぎ取った


そこには
牛の顔ではなく
真っ赤に染まったよく熟れたトマトが
言葉を失った観客たち
何が起こっているのか理解不能だ
屠殺人はおもむろに観客の方を向いて
聞こえるか聞こえないかくらいの声で
こう呟いた


野菜たちの悲鳴を聞け
罪深い者たちよ

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