焼かれすぎた胸のフライパン/殿岡秀秋
フライパン
ぼくは待ちきれなくて
一度だけ
茶色のウールのスカートの上から膝をゆする
悦ちゃんはぼくを見ないようにして
凍った崖のような顔になって
本の中の蟻を数えている
どのくらいの時が流れたのだろうか
ぼくの胸のフライパンは
焼かれすぎて赤くなり
臭いのある煙をたてる
兄たちはまだ帰らない
母も用事ででかけたままだ
ついに物語を読み終わるまで
悦ちゃんは本から目を離さなかった
不意に立ち上がって隣の部屋にいき
帰り仕度をしてぼくを見ないようにして
店に帰っていく
フライパンの熱がさめるまで
ぼくはぼんやりしている
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