焼かれすぎた胸のフライパン/殿岡秀秋
 
小学校から家に帰ると
母の店に勤める悦ちゃんが来ている
兄たちは学校からまだ帰らない
今のうちに二人で遊ぼう
きっと楽しい時間になるだろう
ぼくはランドセルを投げだす
悦ちゃんは少年少女世界文学全集の
一冊を読んでいる
呼びかけても生返事しかしない

子ども用の椅子にすわって
背を丸めて
本を読みつづける悦ちゃんのかたわらで
ぼくは畳にすわりこんで
目をあげてくれるのを待つ

一篇の物語を読み終わるまで
悦ちゃんは読みつづけるつもりだろうか
そうだとすると
兄たちが帰ってきてしまう
今すぐに読むのをやめて
ぼくとだけ遊んでほしい

胸は空焼きされるフラ
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