2006/08/24 創書日和。「離」/山中 烏流
 



わたしが住んでいた部屋は
人づてに
まだ、空き家だと聞いた

散歩がてら
近くを通ってみたりもするけれど
表札を外されてしまったから
もう、帰れない



わたしに似て、健やかに成長した妹は
小さな頃から
わたしにべったりで
こうなった今、そしてこれからも
遠く離れることを
望んではいないらしい

唐突に
「電車で四十分ほど行った、静かな町の
 ある程度裕福な家に
 下の二人は貰われたそうだよ」と
彼女は
そう言ってから、妙な顔で笑った



今、わたしの住む部屋は
似た物同士が集まったアパートの一室で
思ったよりも
快適に過ごせている

表札の数字は
当分、下手をすれば二度と
変わることはない



背の高い隣人が
わたしのことを笑う

笑い返してみても
やはり
そこに、望むものはなかった








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