偶然は必然で運命のような/かとうゆえ
こんなとこで止まっている場合じゃないのよ、
と
女は小さくため息をついて
左にシフトした視界には
男と女がよそよそしく
けれど交わることを想定し
キールのような空気を纏っている
空々しい会話が
聞こえて来そうで来ない
きっとこのあとセックスをするのね、
と
女は確信をもって
斜め前にフレームを移す
長身のバーテンが
もう何年もそうしているかの様に
きゅっ、きゅっとグラスを拭いている
聞こえない振りをしている
一流の役者かもしれない
寂しいわけじゃないと思うんだけど、
と
女は唇に笑みを浮かべて
ベビーキールを
こくっと飲んで
ヒールを鳴らし
店を出る。
後頭部だけで判るなんて馬鹿みたい
目を閉じ大きく呼吸をする
まぶたの向こう側に感じる
ネオンがいつもより目に煩い
顔を上げて歩き出す
女は運命を信じて
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