最後の夏/朧月
私は
ひとつであることを望み
ひとつしかないことを拒み
存在することを憎んだ
廃校の向こうにあった陸橋は
ところどころ 抜け落ちていた
まるで試すように
足を踏み出しては それ以上の行為をせずに
ゆかないことこそ 唯一の抵抗だと思った
おちてゆく自分を思い浮べながら
深い色した川の流れに
ひとひらの緑あって
きりもみしてゆく
様こそが生きるこわさだと
ぞくりとした 夏のあの日
木漏れ日は優しくない
冷え切った静寂は
生命の冷却を教え
そびえる木々でさえも
ときがくればなぎ倒されて
確かさなど なにもないと知らせる
切り立った崖の下
そろりと のぞきこんだ
君の背中を
どれだけ 押してみたいと思ったことだろう
私は 聖者なんかじゃない
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