海の唄/天野茂典
ふかあいトンネルを潜りぬけて地層を下る
ちいさな貝殻の明かり
耳の荒野
雨もふらない砂漠地帯だ
草もはえない
さらさらとさらさらと画用紙のように
チリもたたず 砂嵐もふかない
わたしの耳は
貝の殻
海のひびきを懐かしむ*
鳴っているのは潮騒だ
左耳から咽喉にかけてわだかまるわたしの宿痾
わたしは声を失調している
聞こえないのだ
細かな声が
暴風のように擦過して
ぼわんとひびきわたってしまうのだ
赤くあれあがったアンモナイト
リンパ腺の成層圏はオゾン破壊でいつも
くちゅくちゅしている
そこだけがわたしの生命にか
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