よこしまなにじ/結城 希
コン、コンと2度ノックをして、僕は部屋に入った。
すっと息を吸って、「はじめまして」とあいさつしたけれど、
どうやら誰も取り合ってくれない。
そこには、一風変わった人たちがいた。
タバコをくゆらせながら、じっとテレビを観る人、
落ち着かない様子で部屋の中央を行ったり来たりする人、
壁に向かって、ずっと話し続けている人、
みんな、なんだか気が気でない様子だ。
ふと、一番近くにいた男性がすっくと立ち上がって、
僕の方に歩いて来た。
やあ、よく来たね。ここは初めてかい?
彼は気さくな感じで右手を差し出した。
「名前は何て言うんだい?」
「あ、キツネって言います」
[次のページ]
戻る 編 削 Point(0)