狩る 咳/砂木
咳がとまらないのは喉を傷つけたからだろう
見えない肉片が腫れているのだろう
小雨の降る中 でも見てしまう
干からびて縮んだ小さな蛇が半分だけ
蟻の巣穴に入っている所
この間 蟻に狩られた蛇は保存食となった
しっぽの方から蟻は餌にしているのだろう
うちの冷蔵庫となんら変わりない
違うのは狩られる姿をみている私を
蛇もみていた事
どさり と 窓に落ちる気配が
あの蛇の断末魔に似ているような気がして
体中に喰らいついた蟻を
振り払えない私なのだ 雨の中
地下にひきづりこまれる蛇に
睨みつけられている気がする
もうミイラに なっているのに
悲鳴を でも私はあげない
私だって蟻だ
蛇が睨みつけても 私だって蟻だ
そして蛇だ
呪うんだったら 呪い返す
喉が 小雨にかまれる
小さな音が 腫れた肉にくい込む
咳が止まない
蛇が見ている
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