落とし文月/小池房枝
 
ペンギンのジョナサンは海を飛ぶだろう誰より何より速く巧みに

コオニユリくるくる揺れる出穂も間近な水田みどりの畦道

プールサイドで耳の水抜きするようにとんとん跳ねると落ちてくるもの

真っ白なファイルを抱えて昼過ぎの電車を待つときそよと吹く風

ヤマユリは山姥のゆり鬼のゆりヒメユリはそれを秘めているだけ

本で得た知識などなどと言うなかれ本は二、三冊読むものではない


宮ヶ瀬をヤビツ峠に抜けるとき鹿を見ました夏の鹿でした

久遠って山の孤独な生き物が不思議がるとき鳴く声のよう

風呂の湯を飲みに風呂場にやってくる猫よおまえは何がしたいの?

ヒマワリが全身で雨を浴びている手があればきっと頭洗ってる

夕立が篠突く最中、突然の日射しに打たれた電線が光る

梅雨明けの兆しの日差しが眩しくて電信柱の影に逃げ込む

雨の中カメ散歩きみは何してる?どこへ行きたい?誰に会いたい?

水槽の水草つっと水面に莟を伸ばす雨のベランダ
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