声/アンテ
 
                  「メリーゴーラウンド」 11

  声

何度も何度も
くりかえし読んだ童話がある
街はずれの丘のてっぺんに
大きな観覧車があって
雨の日も風の日も
ゆっくりと回りつづけている
カゴはどれも空っぽで
ごくまれに
だれかが丘をのぼってきて
ごくまれに
カゴのひとつに乗って
一周するあいだ遠くの街並みを眺めて
再び地上に降り立つと
なにも言わずに丘を去ってしまう
そんな場面ではじまる童話だった

自分が目を開けているのだと気づくまで
ずいぶん時間がかかった
真っ白だった視界が
天井やカーテンの形に分割されて
病室の形に
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