さよならはいつものように/結城 希
オルゴールの音が止んだ
世界は 静寂と暗闇で満たされた
行き場を失った悲しみは
僕の中で ぐるぐると巡る
『あの高い塔に登ろう』
君が好きだった
この街の景色を
もう一度見よう
螺旋階段を一歩ずつ登りながら
僕はゆっくりとオルゴールのねじを巻き戻す
もう鳴らない、と知っていながら
屋上の扉を開けて
僕はオルゴールの蓋を閉じた
願いをかけるように
しっかりと鍵をかけた
そして そっと手を離した
地面に砕け散るのを見る前に
僕は屋上のドアを閉じた
「さよなら」
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